First-order PLL、Second-order PLL(1次PLL、2次PLL)

ジッタ解析に関する翻訳で、First-order PLL、Second-order PLL(1次PLL、2次PLL)という言葉がよく出てくる(例えば、ジッタ解析のp5)。

PLLとは、外部からの入力信号(基準信号)と同期した(位相差がゼロの)出力信号を生成するための回路である。PLLの動作は、以下のように表わすことができる。

(1) PLLへの入力信号(基準信号)をA1cos(ωt+φ_in(t))、PLLからの出力信号をA2cos(ωt+φ_out(t))とする。

(2) これらの信号が位相比較器(ミキサなどの掛け算回路)に入力され、誤差信号として位相比較器から

v_detector(t)=(K_detector・A1・A2/2)sin(φ_in(t)-φ_out(t))、K_detectorは位相比較器の利得
≒(K_detector・A1・A2/2)(φ_in(t)-φ_out(t))、φ_in(t)-φ_out(t)<<1の場合
=(K_detector・A1・A2/2)φ_error(t)、φ_error(t)=φ_in(t)-φ_out(t)は位相差

が出力される。この式の両辺をラプラス変換すると(時間領域の信号表現をs領域の信号表現に変換すると)、

v_detector(s)≒K_detector・φ_error(s)

となる。

(3) このv_detector(s)が、伝達関数がF(s)のループフィルターを通るので、その出力v_filterは、

v_filter(s)=F(s)・v_detector(s)

となる。

(4) v_filter(s)が電圧制御発振器(VCO)に入力され、その出力がフィードバックされて、再度位相比較器に入力される。

VCOは、VCOへの入力信号電圧v_filter(t)に応じてVCOの出力信号の周波数ω_vco_out(t)を可変するデバイスなので、

ω_vco_out(t)=ω_c+K_vco・v_filter(t)、ω_cは中心周波数、K_vcoはVCOの利得

と表わすことができる。周波数ωは位相φの変化率(時間微分)なので(ω(t)=dφ(t)/dtなので)、VCOの出力信号の位相φ_vco_out(t)は、ω_vco_out(t)を積分して、

φ_vco_out(t)=∫ω_vco_out(t)dt=ω_c・t+K_vco∫v_filter(t)dt

となる。したがって、VCOの出力信号電圧V_vco_out(t)は、

V_vco_out(t)=A0cos(φ_vco_out(t))=A0cos(ω_c・t+K_vco∫v_filter(t)dt)

となる。

この信号がPLLの出力信号であり、また、フィードバックされて、再度位相比較器の入力信号にもなる。この信号の初期位相K_vco∫v_filter(t)dtを、

φ_out(t)=K_vco∫v_filter(t)dt

と表し、両辺をラスラス変換すると、

φ_out(s)=K_vco(v_filter(s)/s)

となる。

以上の(1)~(4)をまとめると、PLLに、初期位相φ_in(t)の基準信号が入力されると、最初に位相比較器で初期位相φ_out(t)のフィードバック信号との位相差に比例する信号v_detector(t)が生成され(v_detector(s)≒K_detector・φ_error(s))、その信号が伝達関数がF(s)のループフィルターを通り(v_filter(s)=F(s)・v_detector(s))、その電圧v_filter(t)に応じてVCOから初期位相φ_out(s)=K_vco(v_filter(s)/s)の信号が出力され、その初期位相φ_out(t)の信号がPLLの出力信号となるのと同時に、再度位相比較器にフィードバックされ、ループすることにより(基準信号の初期位相φ_in(t)との差(φ_in(t)-φ_out(t))がゼロに近づき)位相同期が行われる。

ここで、入力がX(s)、出力がY(s)、順方向経路の伝達関数(ゲイン)がP_forward(s)、フィードバック経路の伝達関数(ゲイン)がP_feedback(s)の典型的なフィードバック制御系の閉ループ伝達関数H(s)は

H(s)=Y(s)/X(s)=P_forward(s)/(1+P_forward(s)・P_feedback(s))

である。

上で説明したPLLにこれを適用すると、順方向経路の伝達関数(ゲイン)は、位相比較器の利得(K_detector)、ループフィルターの伝達関数F(s)、VCOの利得(K_vco)、VCOでの積分演算(1/s)を掛けたもので、

P_forward(s)=K_detector・F(s)・K_vco・(1/s)

で与えられ、フィードバック経路には何もないのでその伝達関数(ゲイン)は、

P_feedback(s)=1

で与えられるので、PLLの閉ループ伝達関数H(s)は

H(s)=φ_out(s)/φ_in(s)=K・F(s)/(s+K・F(s))、K=K_detector・K_vco

となる。

ループフィルターがない場合は、F(s)=1なので、

H(s)=K/(s+K)

となる。この場合、分母がsの1次式なので、1次のPLLと呼ばれる。

ループフィルターが、CRフィルターの場合は、時定数T=RCを用いて、F(S)=1/(1+sT)と表されるので、

H(s)=K/(s(1+sT))

となる。この場合、分母がsの2次式なので、2次のPLLと呼ばれる。

1次のPLL、2次のPLLについては、以下を参照。

Unlocking the Phase Lock Loop – Part 1(英語pdf)

PRINCIPLES OF PHASE LOCKED LOOPS(PLL)(英語pdf)

CAN FD

シリアルバスの測定に関する翻訳に、CAN FDという言葉が出てくる(例えば、CAN FDアイダイアグラム・マスク・テスト)。

最近の自動車には、ECU(Electronic Control Unit)と呼ばれる自動車制御用コンピュータが多数搭載され(100個以上搭載している自動車もある)、電子制御により高度な機能(パワートレイン制御(エンジンやトランスミッションの制御)、ボディー制御(パワー・ウィンドウ、ドアロック、ミラーなどの制御)、安全制御(各種センサで取り込んだ車外情報によるブレーキ制御など)など)を実現している。また、これらの機能は互いに関連することが多いので、各ECU間でデータ通信を行って協調動作する必要がある。しかし、各ECUをそのデータ専用の個別のワイヤで配線すると、ECUの数が多い場合は、配線の数が膨大になり、配線の重量やスペースが増え、コストの増加、信頼性の低下、故障診断や設計変更が困難になるといった問題が生じる。

このような問題を解決するために、各ECU間のデータ通信を行なうための車載ネットワーク規格として広く用いられているのが、ドイツの電装メーカのBOSCH社が1986年に仕様を公開し、1993年に国際標準化機構によりISO 11898として規格化されたCAN(Controller Area Network)である。CANでは、各ECUが1本の通信線上にぶら下がっていて、1本の通信線を共有している。CANは、マルチマスター方式なので、各ECUを同じ仕様で設計でき、ECUの追加が容易である。マルチマスター方式のため、通信の衝突を回避するために、送信データに優先順位を付けて、複数のECUからデータが同時に送信された場合に優先順位の高いものが送信されるようにしている。1回に送信できる最大データ量(1つのデータフレームの最大ペイロード(データフィールド))は8バイトで、通信速度は最大1Mbpsである。

CANは、国際規格になってから20年以上経過し、その間に電子制御も高度化したので、最大1Mビット/sの通信速度ではデータ伝送容量が不足するようになった。これを解決するために、2000年に欧州のメーカを中心にFlexRayコンソーシアムが結成され、CANの後継規格として、伝送速度の向上(10Mbps)、ネットワーク構成の柔軟性の向上(バス型、パッシブ・スター型、アクテブ・スター型)や信頼性の向上(完全2重化など)のためにFlexRayという規格が策定された。しかし、FlexRayは高価なので採用が進んでいない。これに対して、BOSCH社が新たに策定したのが、CAN FD(CAN with Flexible Data rate)という規格で、2015年に ISO 11898-1:2015として規格化された。CAN FDでは、1つのデータフレーム内のデータフィールドが8バイトから64バイトに拡張され、通信速度が1Mbps以上に高速化されている。

CAN FDについては、以下を参照。

【車載情報技術】車載ネットワーク 「CAN」 「CAN FD」

CAN FD – The basic idea(英語ページ)

zero(零点)

フィルタ設計ソフトウェアに関する翻訳で、zero(零点)という言葉がよく出てくる(例えば、Genesys S/FilterソフトウェアによるカスタムRF/マイクロ波/アナログフィルターのシンセシスのp3)。

図1.

図2.

図3.

重ね合わせの原理が成り立つ線形システムに正弦波を入力して、その定常応答の出力を解析する場合は、周波数応答関数(伝達関数)H(ω)=Y(ω)/X(ω)[X(ω):入力信号の各フーリエ成分(フーリエ変換)、Y(ω):出力信号の各フーリエ成分(フーリエ変換)]を用いる方法が便利である。

一方、入力波形の急激な変化に対する過渡的な応答を解析する場合は、ラプラス変換の伝達関数を用いる方法が便利である。ラプラス変換では、周波数ωの拡張概念である複素周波数s=σ+jωで減衰項を導入することにより、システムの挙動を過渡状態を含めて考えることができる(図1および図2)。

ラプラス変換の伝達関数は、G(s)=Y(s)/X(s)[X(s):入力信号のラプラス変換、Y(s):出力信号のラプラス変換]で定義され、多くの場合、図3のようなsの有理式で表わされる。この有理式の分子を因数分解して、分子がゼロとなるsを、伝達関数が何も伝達しないという意味で零点という。同様に、分母を因数分解して、分母がゼロとなるsを、伝達関数が無限大の量を伝達するという意味で極という(これらの零点や極を複素平面上にうまく配置することにより、所望の伝達特性(伝達関数)を持つフィルタを設計できる)。

ラプラス変換については、以下を参照

The Laplace Transform(英語pdf)

東京工業大学 大学院理工学研究科 電子物理工学専攻 松澤・岡田研究室のホームページ > Lectures > 信号システム解析 > 2006 03