Repository(リポジトリ)

Repository(リポジトリ)
ITの分野でRepositoryとは、データの貯蔵場所を意味する。データや処理工程における情報、プログラムなどが保管され一元的に管理されているデータベースのようなもの。具体的には、設定情報のファイル、これらのデータやファイルが保管されているフォルダー、ソースコードや仕様情報が保管されているシステムなどを指す。また、ライブラリーを集めたサーバーを意味する場合もある。このリポジトリからファイルなどをローカルにコピーして作業を行い、終了したらリポジトリーに返す(差分をアップデートする)わけだ。つまり、ファイルのチェックアウトやチェックインをする。よく耳にするメタデータなどは、このリポジトリで管理している。レポジトリとも表記されたりするが、リポジトリとするケースが多い。

Spread(スプレッド)

最近やたらと目にする耳にするスプレッドという言葉だが、ここで紹介するスプレッドは、例えばパンに塗るチーズやジャムなどの塗りもののことではない。ニュースなどでよく聞く”次期主力戦闘機導入計画 (F-X:Fighter-eXperimental)のことでもない。FX(Foreign Exchange:外国為替)においてスプレッドとは、売値と買値の価格差のこと。一般的には「外国為替証拠金取引」を指す。
さて、このスプレッド、立場によって、それぞれ外貨交換手数料(コスト)となる。海外旅行の際の外貨交換の窓口などで、TTSとTTBという表示を目にすると思うが、この差額がスプレッドというわけだ。銀行などの金融機関では、仲値に対してスプレッドコストを上乗せしている。つまり、手数料とスプレッドが別々にコストとしてかかったりする。

Vender lock-in(ベンダーロックイン)

一言で言えば、ユーザーの囲い込み。特定のベンダー(メーカーなど)の製品や技術に依存し過ぎると、他のベンダーのそれらへの乗り換えは困難になってしまうもの。選択肢が狭まり価格が高くなっても購入せざるを得ない状況に陥ってしまうケースも起こり得る。オープンアーキテクチャやオープンソース製品などを利用することで、ある程度のロックイン回避も図れるが、話題が高まっているのはクラウドサービスによるベンダーロックイン。サービス提供側とユーザー側との微妙な駆け引きは続く。

Onboarding(オンボーディング)

海外への飛行機の中では”Welcome onboard(オンボード)this flight…”といったアナウンスが流れるが、ITの分野でオンボードとは、マザーボード上に何らかの機能を備えた部品(デバイス)が搭載されている状態やそういった部品のことを指す。さて、ここで言うオンボーディングとは、新メンバー(例えば、新しい社員/乗組員/加入者など)を組織(プログラムなど)にスムーズにかつ迅速に熔けこませ機能させる(パフォーマンスを促進させる)プロセスを意味する。因みに、金融(証券)分野でクライアントオンボーディング業務と言うと、顧客口座開設にあたり顧客や参照データの確認など(いわゆるデューディリジェンス全般)を意味する。文脈を理解していないと、とんでもない誤訳をしかねない。

Enterprise architecture(エンタープライズアーキテクチャ)

組織構造を明確にし、目的やミッションを実現するために組織の最適化を目的にした手法といったところだが、見慣れない用語だけにピンとこないかもしれない。大企業、自治体、政府機関などの巨大組織では、組織の構成要素も数多く内外を含めた相互関係も複雑である。これらを明確に記述し、構造の体系的な理解、業務やシステムの標準化、明確なリソースの位置づけなどを図り、いわゆる可視化や見える化を進めることで、無駄の排除(コスト削減)や高度な意思決定支援に結び付けている。組織としての在り方、あるべき姿を問う手法と言える。

Check out(チェックアウト)

チェックインがあればチェックアウトがある。先ず、リポジトリからファイル(データ)を自身のPC(ローカル)にコピーすること(つまり、リポジトリから取り出すこと)をチェックアウトと呼ぶ。あるいは、そのファイルにロックをかけ、チェックインするまで手を加えられないようにすることをチェックアウトと言うこともある。因みに、ローカルにファイルをコピー後、リポジトリの当該ファイルが更新され、それを再度ローカルにコピーすればアップデート(リフレッシュ)となる。さて、位置情報を伝える(ジオメディア)の世界では、自身の居る場所を離れることをチェックアウトと言う。Google Checkoutというのがあるが、これはGoogleが提供しているオンライン決済代行サービスなので、ここでいうチェックアウトと混同しないように。

Check in(チェックイン)

同じチェックインでも、ホテルのチェックインや飛行機への搭乗手続きとは違う。この用語、あなどってはいけない。ITの世界では進化し続けているので確認しておいた方がいい。基本的には、変更したファイルをリポジトリ(いわゆるデータの貯蔵庫、フォルダーなど)に反映させる操作のことを指す。進化した意味では、位置情報を友だちなどに知らせることを意味する。ソーシャルネットワーキングサービスでは、モバイル端末のチェックイン機能を使って、例えば”スポット”と呼ぶロケーション機能に”チェックイン”し、自身の居る場所を友だちに教えたり、あるいは同じ場所にいる友だちを見つけたりする。つまり、現在位置を知らせる意味でもあり、その機能を指したりもする。当然、チェックアウトもある。。。

Redundancy(冗長化)

冗長化の意図する内容も文脈によって異なるため注意が必要だ。例えば、”冗長な表現”と言うと、一般的には”無駄にだらだらと長い”ことを指して良い意味にとられない。が、ITの世界ではシステムの冗長化が一般的には重要視されたりする。いざという時(リスク)に備えてリソースに余裕を持たせておくことが必要となるからだ。ビジネス(サービスなど)の継続性を考えれば、”余裕を持たせてサーバーをもう1台”、”複数の接続回線を”、”ストレージに余裕を”といった声が現場で上がるのも必然だろう。ある意味、重複(冗長化)することで安全性を確保している。ただし、マイナスの意味で使われることもあるので、ドキュメントの意図する方向性を読み誤らないように。

On-premise(オンプレミス、自社運用型、社内)

自社(自前)でシステムなどを導入、設置、運用するという意味。クラウドコンピューティングによるSaaSなどの普及以前は、ハードがソフトを自前で購入(インストール)し運用するのが一般的であった。企業(組織)が、いわゆるオンデマンド型サービスを利用するか、オンプレミス型で業務を展開していくのか、あるいはハイブリッド型でいくかは、業態や目的、環境、条件などによって違ってくるだろう。IT業界は、イノベーションの多い世界。クラウドコンピューティングの対比でオンプレミスという言葉も頻繁に見かけるようになったが、クラウドの次に訪れる波は何だろうか。

Launch(ローンチ、起動、立ち上げ、取り扱い開始、…)

船出(開始)を示唆するが、分野によって表現がさまざま。マーケット関連では、製品やサービスを市場投入する場合にローンチという表現がよく使われるが、”投入””立ち上げ””発売””取り扱い開始””サービス開始”などといった表現もある。金融(証券)分野では、有価証券の発行を市場に発表することやファンドの立ち上げを意味する場合にローンチを用いる。因みに、翻訳プロジェクトを開始するときの表現として、ローンチはあまり使わない。皆さんご存じのとおり、”キックオフ”と言う。さあ、始めよう!というミーティングがキックオフミーティングとなる。終了後のミーティングは、評価、反省、今後のフォローも検討するという意味でフォローアップミーティングと呼ばれる。

Provisioning(プロビジョニング)

この用語の示唆する内容が広がってきたため、提供、供給、準備といった一般的な意味ではカバーしきれなくなっている。ITの分野では用語の意味する内容が進化しているため、プロビジョニングとカタカナ表記しないと文脈が混乱することになる。
サーバーを例に説明すると、例えばサーバープロビジョニングとは、サーバーを運用可能な状態にすることを指す。つまり、サーバー群からサーバーを選び出し、OSやアプリケーションソフト、デバイスなどをロードし、IPアドレスなどのシステム設定を行う一連の準備作業を示唆する。これがさらに進化して、CPU、メモリ、ストレージなどのコンピューティングリソースを動的に(静的な確保だけでは効率的な処理ができないので動的に必要なリソースを確保して)割り当てることも意味するようになってきた。
ちょっと難しい説明になってしまったが、ユーザー自身がリソースを用意しておかなくても、ニーズに応じてシステムリソースを直ちに用意してあげるようなサービスは、まさにこのプロビジョニングの発想だと考えれば理解できるだろうか。最近は、さらにアカウントやID情報などのライフサイクル(生成~失効)を管理する機能を指す場合も出てきている。そういった意味で、進化系用語なのだ。

Five nine(ファイブナイン、稼動率99.999%)

Five nineで思い出したが、その昔、1980年だったか『Nine to Five(9時から5時まで)』という映画があった。今は、ミュージカル化されて公演されているようだ。確か『Morning Train』という曲とも何か係りがあったように記憶しているのだが忘れてしまった。稼働率100%を目指して朝から働きづめというわけではないが、その映画と”Five nine”は全然関係はない。ファイブナインは、9が5つという意味。可用性を数値化した稼働率が99.999%ということ。年間の停止時間がたった5分15秒のようだが、やがては完全に100%というシステムも現れるのだろうか。訳す場合は、元原稿次第だが、five nineがフレーズのように強調され複数回出てくるようであれば、ファイブナイン(稼働率99.999)と説明してから使用するか、文脈のリズムによってはその逆の表記でもいいだろう。単にfive nineと単発で使用されていたら、”稼動率99.999%”と訳した方が読者にはわかりやすい。

Widget(ウィジェット)、Gadget(ガジェット)

一緒に理解した方がいい用語。CEOメッセージでも紹介しているのでそちらも見て欲しいが、”便利なミニアプリ”であり、”あれば便利なアクセサリーソフト”とも言えるが、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)の要素が強いプログラムであるため対話型ツールでもある。言うなれば、さまざまな”かわいいミニアプリ(情報や機能)”へのアクセスを提供するアプレット(小さなプログラム)のようなもの。ウィジェット/ガジェットというように一緒くたに扱われる傾向にあるが、エンジンの提供元によって表記が違うので、ローカライザーとしては、正確に用語どおり訳しておくべきだろう。

Award-winning(…)

IT分野のドキュメントでは”受賞歴のある”とか”賞を獲得した”といったような訳語がよく使われる。翻訳依頼側の担当者がそう指定しているのかもしれない。英語がそうなっているし、何となく宣伝になるかも、という理由からだろう。海外では”受賞”とさえ書けば何となく宣伝になるということはわかる。しかし。日本の社会では、何の賞なのかを明記せずに”受賞歴のある”と表記するだけでは、マイナスのイメージを与えかねない。”何の賞?”と聞き返したくもなる。誰も知らない、あるいは権威のない賞なら、宣伝文句としては使わない方がいい。逆効果を生みかねない。具体的な賞名がわからないのであれば、あるいは数多くの賞にでも輝いていない限り、訳すかどうか依頼側の担当者と相談した方がいい。そうでなければ、”評価の高い””定評の””実績を誇る””幅広く高い支持を集める”などと文脈を考えて別の表現を用いた方がスッキリする。業界関係者しか知らない賞であれば、文脈のどこかにそっと添える程度がいい。謙虚さを、日本の読者は見逃さない。”この製品、実はスゲえ!”と感嘆するかも。それが日本かな…。

Deduplication(デデュプリケーション、重複除去、重複排除、重複除外、非重複化)

データ保管(バックアップ)の際に、重複しているデータを検出して除く技術なのだが、いろいろな訳語が使われている。ローカライザーとしては、煩わしいことだ。どの訳語に統一されていくのかは、市場に任せるしかないのだろう。
訳語が複数存在する理由は、重複を”(…)する場所とタイミング(方式)”に起因している。その方式が、おおよそ3とおりある。先ず、バックアップの際にサーバ側で重複を検出して”(…)する方式”。次に、サーバーからストレージへの転送過程で”(…)する方式”。そして、転送先のストレージ内で”(…)する方式”である。つまり、それぞれのメーカーが採用した”(…)する方式”によって、除外、除去、排除といったニュアンスの異なる用語が使われだしたわけだ。また、バックアップデータの重複化を避ける意味で”非重複化”と言いきってしまうのも頷ける。漢字表記をやめて、カタカナ表記にしてしまおうと考えるのも、また頷ける。

Vulnerability(脆弱性)

この単語を誤訳する翻訳者はいないだろうが、Threat(脅威)、Security hole(セキュリティーホール)、Risk(リスク)などの用語が含まれる文章などに出会ったときに、各用語の意味を正確に理解していないと訳文が組み立てられなくなったりする。脆弱性とは、脅威を誘引してしまうセキュリティ上の欠陥や弱点のことで、システム上の問題点以外にも人間の振る舞いによる脆弱性(人為的脆弱性)や自然災害などに対する脆弱性などもあり、その要因は多岐にわたる。セキュリティホールは具体的な欠陥や不具合のことで、脆弱性とは完全に同義ではないので、文脈を把握して正確に訳す必要がある。
ローカライザーとして毎日のように見慣れているこの用語に違和感はないのだが、この訳語を見るたびに”わかりやすい表現”とはどういったものかについて考えたりする。何と読むのか、どういう意味なのか、戸惑う人もいるのでは…と。

Severity(重大度、…)

翻訳者なら、訳を間違えることはないだろう。医学系だと”重症度”とも訳す。分野や文脈によっては”重要度”と訳す場合もあるが、やはり重大度が意味的には近い。重要度を意味する英語には”importance”、”significance”、”priority”などがあるが、きつい(深刻とか重大な問題といった)イメージは浮かばない。つまり、日本語の”重大度”とはニュアンスが完全に一致しているとは言い難い。重大度は深刻度に近い。原発事故の英語のニュースでは、深刻度として”severity level”とか”severity rating”という表現が出てくる。深刻度は”seriousness”を用いて表現する場合も多いが、どちらも重要度とはニュアンスが異なる。深刻度の意味として”vulnerability”も考えられるが、ITの世界ではこれもまた意味合いが違う。微妙なニュアンスをうまく伝えるにも、やはり文脈の把握が大切だろう。

Secure(セキュリティで保護された、セキュア~)

安全に関するさまざまな表現が可能な便利な用語。ITの世界では、セキュリティ(Security)と同じような使われ方をする。Securityは名詞だが(形容詞的に使われる場合もあるが)、Secureは形容詞であり動詞でもある。辞書的な説明はさておき、分野や文脈によって、その訳し方は幅広く可能だ。システム、データ、ネットワークなどがさまざまな保護機能によって守られている(安全性が確保された)状態だと考えればいい。因みに、セキュリティが強化されたオペレーティングシステムを”セキュアOS”と呼ぶが、英語ではsecure OS(operating system)とはあまり言わない。Security-focused~と言うが、secureに比べて音感的にもスマートな感じがするのは、筆者だけだろうか。

Inventory(インベントリ、インベントリ作成、…)

資産台帳や資産目録、品目(を作成)、棚卸し(をする)といった意味だが、IT資産に関しても、例えば企業は自社が所有するIT機器やソフトウェアなどの詳細な情報(取得年月日、契約形態、設置場所、品名、型番、性能、容量などのスペック、ネットワーク関連情報、ソフトウェアのライセンス内容など)を項目別に詳細にまとめて管理している。こういった管理するための情報やその行為を、IT分野では”インベントリ”とか”インベントリ作成”と訳す。会計分野においては、資産を一元的に管理するために必要な財産目録と言える。これらインベントリの作成や管理を支援するツールなどもある。企業では、機器類の新規購入、増設、ソフトの更新、廃棄、原価償却などが常に発生するためインベントリ管理の効率化が求められるわけだが、そこにビジネス市場が存在する。

Robust(堅牢な、信頼性の高い、トップクラスの、…)

頑丈で丈夫、頑強、強靭、強健などの意味があり、さまざまな場面で用いられる。人や企業に対しても使える。IT分野では、ハードウェアが丈夫で壊れにくいとか、システムやソフトウェアが、エラーや障害などに柔軟に対応できることを示唆する場合に使う。そういった強さや対応能力を指して、堅牢性に優れているとか表現する。
強固で壊れそうにない、簡単に壊れない、破れない、つまり脆弱でないということから、ハードやソフトだけではなく、セキュリティに対しても使われる。ワイン好きの筆者には、ラテン語のrobustus(オークのように強い)という意味で馴染みがある。ワインの保存熟成には、オーク樽が使われる。丈夫というだけではなく乾燥にも微生物にも強い。ワインの話になると長くなるので、このあたりで…。それでも一言。しっかりした、こくのある、豊醇なワインに対して”robust wine”と言ったりもする。

BYOD(Bring Your Own Device)(私物デバイス、個人所有デバイス)

文字どおり、従業員が社内に持ち込んで業務に利用する私物の端末を指している。端末そのものを指すこともあれば、そういう考え方を意味している場合もある。つまり、私物の情報端末などを社内に持ち込んで業務で利用することだと理解していれば、文脈から適宜訳していけるだろう。端末を示唆する場合は、ニュアンス的には”私物デバイス”という訳語がいいと思うが、”個人所有デバイス”と表現しているドキュメントも多い。どちらを用いるかは、翻訳プロジェクトごとに決めることになる。使い慣れたスマホなどの端末を使えば、業務効率がアップするケースも多いだろう。が、セキュリティリスクへの対応が大きな課題でもある。BYODポリシーの作成にあたっては、企業に課せられる電子情報開示、フォレンジック、コーポレートガバナンスのことも考えて検討されなければならない。企業におけるBYODの活用はますます広がるだろう。それに合わせて、モバイル端末向けの各種ツールもさらに市場投入されていくに違いない。

Jailbreak(Jailbreak、脱獄)

脱獄を勧めているわけではない。あくまでも、セキュリティに関するドキュメントなどに出てきた場合の訳語として挙げてみた。Jailbreakの行為がどこまで認められているかだが、合法であるなら別の訳語にした方がいいのかもしれない。Jailbreakを簡単に説明すれば、公式アプリ以外でもインストールできるようにすることなのだが、アップル社のiOS機器(iPadやiPhoneなど)の広がりでJailbreakという用語を目にすることが多くなった。この行為は、メーカーが意図していない手法でソフトやアプリを動作できるようにすることを指しており、Jailbreak行為自体の違法性に関する議論はさておき、非正規にインストールしたアプリで可能となる違法行為が問題なのだろう。メーカーが制限していることを非正規に解除するための「脱獄ツール」も流行っていたりする。何れにしても、セキュリティやサポートの問題も発生するので、注意が必要だろう。

Leverage(活用する、応用…、利用…、影響力、…)

投資分野では”レバレッジ”と訳される場合が多い。Leverageは”てこの作用”を意味する言葉であるため、投資分野においては、”ある要素を活用して利益(率)幅を拡大する効果を見込むこと”を意味することがわかるだろう。例えば、自己資金を担保にする場合もあるが、他人資本を利用して自己資本に対する利益率を高めるわけだ。他人のお金を使って儲けると考えれば、活用、利用、応用、効果を利用、影響力を行使、などといった意味になることがわかってくる。投資分野では、レバレッジ効果とかレバレッジバイアウトなどといった用語が飛び交う。IT分野で使われている場合は、”てこの作用”から派生した用語なので”活用”と訳されるケースが多い。”レバレッジ”と訳したら読者が混乱する。逆もしかり。

Loyalty(ロイヤルティ)、Royalty(ロイヤリティ)、どっち?

マーケティング分野でよく使われる用語だが、訳語を間違える翻訳者はいないだろう。迷うとしたら、ロイヤルティとロイヤリティのどっち(”ル”または”リ”のどちら)の表記が正しいか、だと思う。翻訳プロジェクトにおいて、訳語の指定があればそれを使えばいいのだが、指定がないとしたらどっちの表記が一般的に広く使われているかで判断するしかない。ロイヤルティが多いような気がする。
辞書的な訳としては、忠誠(心)とか愛着(心)だが、どうもしっくりこない。例えば、brand loyaltyを”ブランドへの愛着”と表現しても、正確性に欠ける。”~忠誠”とすれば気持ち悪いほどの違和感がある。Brand loyalty”の結果、消費者はある特定のブランドを繰り返し購買するのだが、市場に競合のない製品(ブランド)を繰り返し購入せざるを得ないようなケースは、当然ながらブランドロイヤルティとは言わない。”それが絶対好き!これしか買わない!”というのがロイヤルティである。
因みに、ロイヤリティ(Royalty)は、ライセンス料や著作権使用料など、権利者へ支払う対価のこと。それをロイヤルティと発音してもいいのだろうが、意地を張らずにロイヤ”ル”ティとロイヤ”リ”ティを使い分けよう。LとRの違いを日本語で表記するのが難しいために、語中の”ル”と”リ”で違いを表現しようとしたのかどうか、起源はわからないが…。

Proprietary(専用、独自の、固有の、…)

辞書の訳語としては、”所有権(の)”とか”著作権のある”といったところだろうが、文脈から判断して、法的な説明でない限り”専用~”とか”固有の~”と訳す場合が多い。”Open(オープン)”に対してプロプライエタリ~と言う場合もある。例えば、仕様やソースコードなどを公開せずに独占的に権利を保有しているソフトやシステムのことを、プロプライエタリソフトウェア とかプロプライエタリシステムと言ったりする。オープンの反意語として”クローズド~”もあるが、”クローズド~”と言う場合、一般的にはソースコードが公開されていないことを指しており、反意語として捉えるには、それぞれの用語の示唆する範囲が厳密に対応していないことに留意する必要がある。

Deploy(デプロイする、配置…、展開…、…)

読者層によって用いる訳語を決める必要があるが、IT分野で使う訳語の優先順位としては、1)デプロイする、2)配置する、3)展開する、だろう。”導入…”と訳す場合もある。”配備…”と訳されているケースも見かけるが、軍備に関して用いられる英語の意味がそのまま使われているようで日本語的に違和感は拭えない。IT分野におけるデプロイ(メント)には、幅広い意味がある。リリースやインストールをはじめ、システムの開発環境からステージング環境へ、さらには本番環境への反映も含まれている。システムを利用可能な状態にするまでの一連の行為を指すことを考えると、意味を限定せずにデプロイとした方がいいだろう。

Implement(実装する、インプリメント…、実行…、実施…、実現…、…)

IT分野のドキュメントなら、”実装する”とか”インプリメントする”とか訳す。IT技術者にとっては、その用語で何ら違和感はない。実装というのは、機器やソフトアに新しい機能、部品、仕様、プログラムや関数などを組み込む行為のことだが、”実装”にするか”インプリメント”にするかはプロジェクトごとの確認が必要だろう。文脈によっては”導入”と訳す場合もある。何れにしても、文脈に従えばよい。一般的なドキュメントでは、言うまでもなく”実装”や”インプリメント”などとは訳さない。分野やターゲットなる読者層を考えて、実行、実施、実現といった訳語を用いるべきだろう。

Premium(プレミアム、……)

翻訳者泣かせの単語でもある。分野によって訳語が異なるからだ。カタカナ表記が安全ではあるが、翻訳者としては最適な訳語を用いたい。そのためには、この単語の意味を理解するしかない。
Preの接頭辞からして、ラテン語のPrimusかPraeあたりが起源なのだろうと想像できる。楽しく解釈すれば、Primusには第一番目という意味もあるので、戦国時代で言うところの”一番槍”がそれにあたると推測できる。つまり、勇敢に先頭に立ち、死のリスクを負いながら敵陣に切り込んで最初に手柄をたてれば、”あっぱれ!”ということで特別に上乗せされた恩賞がもらえたわけだ。従って、一番槍は特別な存在(希少価値)であり、手柄を立てれば、通常の手柄よりも恩賞という価値が付加されたことになる。今でいう付加価値だ。それから派生してきたに違いないと考えれば、賞与、奨励金、割増給、景品類といった訳語が出てくる。逆の立場からすれば、割増金、オプション料金、手数料、掛金…がプレミアムになるといった解釈も可能となる。何れにしても、文脈を読み取ろう。

Availability(可用性)

アベイラビリティとも言う。英語に馴染みのない人にとっては、どちらにしてもピンとこない。稼働率と言ったら、わかるだろうか。IT分野では、決められた条件下におけるシステムや機能などの正常な稼働能力を意味する場合が多い。例えば、システムの稼働能力が優れていれば稼働率も高くなり、費用対効果も良くなる。つまり、可用性が高いということは、システムが壊れにくい、障害が発生しにくい、障害が発生しても復旧が早い、安心して使用できることを意味する。そう言う場合に、ハイアベイラビリティであるとか可用性が高い(高可用性)と言ったりする。企業のミッションクリティカルな基幹システムに求められる能力である。可用性を数値化したものが稼働率となるわけだ。

Social network(ソーシャルネットワーク)

ネットサービスの世界では、Social Networking Serviceのことを指したりするが厳密に訳した方がいい。Social Networking Serviceは略してSNSと言ったりするが、ネットワーク上で会員制のコミュニケーションの場(コミュニティサイト)を提供しているサービスということになる。訳すとしたら、ソーシャルネットワーキングサービス。これを安易に”ソーシャルネットワーク”とすると、後々整合性が保てなくなったりする。また、社会的ネットワークと言う場合は、ネット上だけではなく社会におけるさまざまな繋がりを示唆しているので、”ソーシャル~”と”社会的~”は、うまく使い分けた方がいいだろう。
ソーシャルネットワーキングサービスの代表的なものに、日本だとmixi(ミクシィ)、GREE(グリー)、Mobage(モバゲー)、海外だとFacebook(フェイスブック)、Myspace(マイスペース)などがある。招待制や登録制によって会員を増やすのだが、一般のブログでもコメントやトラックバック機能を付ければ、そのサイトもソーシャルネットワークと言えなくもない。因みに、映画『ソーシャル・ネットワーク』はFacebookの創設者(マーク・ザッカーバーグ)らをドラマ化した2010年の作品。原題の”The Social Network”をそのまま訳したタイトルだが、原作の英語タイトルは『The Accidental Billionaires(偶然の億万長者たち)』。ネット社会の偶然の産物、不慮の幸運ってとこなのかな~。ピッたし!のタイトルかも?

Accessibility(アクセシビリティ)

カタカナの訳語にしてしまうこと自体、意味をわかりにくくしているのかもしれない。アクセス性(アクセスのしやすさ)を意味しているのだが、概念は幅広い。類語としてアベイラビリティ(可用性)やユーザビリティ(使いやすさ)も考えられなくもないが、概念の広さが違いすぎる。一般的には障害者や高齢者などへの対応性を語る場合に用いる。例えば日本では、建物や施設の(内外の)段差を取り除いて利用しやすくしていることをバリアフリーと言うが、英語圏ではアクセシビリティを使う。IT分野では、Web閲覧環境への対応性をWebアクセシビリティなどと言う。また、ユーザー補助(機能)を指す場合もある。何れにしても、利用者に使いやすく配慮がなされているかが問われている。

Innovation(革新、イノベーション)

技術革新と訳されているドキュメントもあるが、文脈を正確に捉えてから翻訳しないと整合性が失われかねない場合がある。Innovationだけなら”革新”か”イノベーション”と訳した方が文脈の整合性は確保できる。つまり、イノベーションをもたらすものには、技術の発明だけではなくさまざまな要因があるからだ。Innovationとは、新しく創出された価値などによって社会的に大きな変化や変革、刷新がもたらされることを意味しており、技術的な革新以外にも社会に広く影響を与える新しい概念や仕組みなども含まれる。因みに”technical~”とか”technological~”とあれば、技術革新と訳すことになる。

Business continuity(事業継続、ビジネス継続性、…)

ビジネスコンティニュイティとすべてカタカナにする場合もある。統一を図る上でも翻訳プロジェクトごとの事前の確認が必要だろう。末尾に”性”を付けるかどうかは、文脈を掴んでから決めることになる。因みに、Business continuity plan(ning)とある場合は、”性”を付けずに”~継続計画”とするのが一般的。企業にとってビジネスの中断は大きな損失を招くことになる。リスクマネジメントの面からも重要な経営課題であり、ディザスタリカバリ計画を含めた総合的な事業継続管理(Business Continuity Management)が求められている。

Disaster recovery(ディザスタリカバリ、障害復旧、障害回復)

Disaster(災害)とあるので、災害復旧としたくなるだろうが、ここで言うRecovery(復旧)は主にコンピュータシステムやネットワーク障害からの回復措置、運用体制、予防措置(事前対策)などを指している。”災害”の指す範囲は広く、自然災害(天災)によるものから人為的(人災)なもの、さらには修復困難なエラーや機器自体の故障などまで含まれている。障害は起こりえるものであり、企業は各種の障害を効率よく迅速に復旧するための体制を整えなけれならない。ビジネス継続性の強化に向けた取り組むべき課題と言えよう。

Embedded(埋め込み~、組み込み~)

“埋め込み~”と”組み込み~”が混在して使用されている。エンベデッド~とする場合もあるが、どの訳語を用いるかは、それぞれの翻訳プロジェクトごとに確認する必要がある。昨今は”埋め込み~”が広く使われている。ただし、ソフト、システム、データベースの場合は”組み込み~”とするケースが多い。システムを組み込み系とかオープン系とか呼称していた影響かもしれない。因みに、組み込みシステムとは特定の機能を実現するために機械や機器などに組み込まれるコンピュータシステムのことだが、洗濯機、炊飯器、テレビなど最近のほとんどの家電製品に搭載され(組み込まれ)ている。

Accountability(アカウンタビリティ、説明責任)

文字どおり、Account(説明)するability(能力)なのだが、Accounting(会計)とResposibility(責任)の合成語である。言うなれば、責任を負っているものは自らの責任に対して説明する責任があるということ。元々は出資者に対する会計報告を意味していたが、今では幅広く使われている。近年は、ステークホルダーに対しての説明責任のことを指すケースが多いが、分野によって用いられ方はさまざまだ。例えば、企業の管理者にアカウンタビリティが求められると言う場合は、意思決定などに責任を持ち、問題の解決策を見出し、目標達成に向けて主体的に行動しようとする意識を持つことを意味する。福祉分野では、サービス提供事業者がサービスの内容を利用者側に対して十分に説明し、利用者側に内容をしっかりと理解してもらい合意を得ることを指す。医療分野では、インフォームドコンセントの重要性が叫ばれるように、正しい情報を伝え十分な説明を行い理解していただいた上で同意を得る(拒否される)というステップが求められる。

Corporate governance(コーポレートガバナンス)

企業統治と訳される場合もあるが、カタカナ表記を推奨する。統治とは、主権者がまとめおさめることを意味するが、ここで言うガバナンスとは”監視”のニュアンスが近い。企業の健全性や透明性、法規定の遵守性などを確保するには、さまざまな機能が適切に組み合されなければならない。経営者の姿勢(意識)のチェック、マネジメントレベルの管理や監督、的確な内部統制、内部監査や外部監査などにより、違法行為や理念から離れた行動などを阻止できなければならない。ガバナンスでは、適切な情報開示やステークホルダーへのアカウンタビリティ(説明責任)が求められる。経営陣、管理者層の責任の明確化もなされなければならない。そこで議論になるのが、「会社(企業)は誰のものか」という問いだろうが、誰のもの(誰が主権者)かと論じるより、健全性、透明性、遵守性を確保することへの意識を徹底することがガバナンスに繋がる。

Stakeholder(ステークホルダー)

利害関係者と訳す場合もあるが、カタカナ表記が浸透してきている。企業の利害関係者と言う場合、その範囲をどう定義するかで解釈が分かれたりする。表記はともかくも、直接、間接を問わず利害関係者を指すのだろうが、”利害”とは何か、”間接的な関係者の範囲”をどう定義するのかは難しい。難しいと言えば、あるドキュメントに、”コーポレートガバナンスの視点からすると、企業との利害関係や依存関係がない外部からのモニタリングが重要で、モニタリングを行う人たちは利害関係者であってはならない”とあった。しかし、その後に”ステークホルダーとの連携で…”ともあった。連携しながらモニタリングすれば間接的ながらも関係していることにはならないか。どう翻訳すれば論理がつながるのか。翻訳者がそこまで考える必要があるのか、と思う部分もあるが、ドキュメントの筆者が言わんとしていることが理解できるだけに、そこは翻訳者としての”腕”の見せどころ…でもある。

Forensic(フォレンジック)

簡単に言えば、デジタルデータの法的証拠性を明らかにすること。その手法や技術によるビジネスも生まれている。さてさて、これもピタッとはまる(見てすぐわかる)日本語訳がない。フォレンシックと言う場合もあるが、フォレンジックの方が浸透している。一般にはまったく馴染みのない用語だが、民事訴訟では電子情報開示が義務付けられているだけに、フォレンジックが万全かどうか企業にとっては極めてクリティカルな課題だ。要求されるデジタルデータを洗いざらいすべて、いかなる漏れも許されず遅延なく提出しなければならない。提出漏れがあるだけでも厳しい制裁が課せられる。破壊や消去されたファイルの復元、改ざんやねつ造の検証、ログファイルの解析や不正アクセスがあった場合の追跡などによって証拠となり得るあらゆるデータが押収されることになる。従って企業は、日ごろからデジタルデータの管理や保全には、あらゆるフェーズで万全を期しておかなければならない。デジタル社会では、フォレンジックがますます重要視されてくるだろう。

eDiscovery(電子情報開示)

民事訴訟における証拠開示の意味だが、法律(制度)によってあらゆる電子データ(情報)の提出が義務付けられている。民事訴訟においては、要求されるすべての情報を開示する義務がある。要求があれば、どのような機密情報であっても提出を拒否することはできないが、米国と日本とでは拒否可能なレベルが異なるため、米国でビジネスを展開する日本企業にとっては特に注意が必要だろう。米国の民事訴訟では、いかなる理由があれ、作為か無作為かを問わず、故意であれ過失であれ、証拠となる情報の提出に微細な漏れがあるだけで厳しい制裁を受けることになる。企業には、社員のPCを含めあらゆる電子的な媒体に記録されているあらゆる電子データの徹底したフォレンジック(デジタルデータの収集、取得、探索、精査、抽出、解析、保全など)が求められる。

Assertiveness(アサーティブネス)

ピタッとくる日本語がない。”自己主張”とか”意見表明”と訳したのでは、マイナスのイメージも含まれて意味合いが微妙に異なってくる。アサーティブネスを一言で表現するとしたら、”対等で率直、誠実なコミュニケーション”手法といったところか。相手を尊重し、相手と対等に、自身の意見や感情を誠実に、率直に、責任をもって、且つ適切に表現し主張するコミュニケーションの技法なのだが、外交交渉においては語るに及ばず、ビジネスにおけるマネージメントの領域でも、アサーティブネスを身につけておくことが重要視されている。とは言っても、マスターするにはそれなりのトレーニングが必要なのかも…。

Corporate branding(企業ブランディング、コーポレートブランディング)

企業価値を高める活動を意味するだけに、取り組むべき領域の幅は広い。価値を何に、どこに見出し、どう付加してマーケティングを展開していくかだが、そのためにも自己(自社)分析を徹底して行う必要がある。そもそも、価値を決めるのはユーザー(お客様)であることを考えると、購買行動に繋げるためのお客様ニーズの把握、差別化を図るための競合他社の詳細な分析もしなければならない。「お客様は神様」かどうかは別として、お客様にとっての価値の見極め、競合他社および自社のあらゆるフェーズでの詳細な分析は基本ということになる。

Corporate identity(企業アイデンティティ、コーポレートアイデンティティ)

企業が自社の独自性、つまり特徴や理念、強みなどを明確に打ち出してアピールしていく企業戦略の一つ。アイデンティティは、実体が見えない概念的な表現なのでわかりにくいが、コーポレート~は、もともと企業文化やよりよい経営環境の創出に向けた経営手法の一つでもあった。時代とともに含まれる概念も変化してきているが、企業ブランディングを成功させるためにコーポレートアイデンティティが求められる、と捉えると何となく理解できるだろうか。コーポレート~の確立には、さまざまなフェーズが絡んでくるが、例えば企業のロゴやシンボルマークなどで視覚的に企業のコンセプトを明示することがビジュアルアイデンティティと呼ばれる。今の時代、企業イメージは極めて重要視されている。物質的な価値がないとされていた”ブランド”を”資産”としてビジネス戦略に取り入れた手法が「企業ブランディング」へと繋がっている。

Brand identity(ブランドアイデンティティ、ブランドの独自性)

アイデンティティとするか独自性などと訳すかは、翻訳プロジェクトによって異なるだろう。企業にとっては、いわゆる”差別化(差異化)”をどう図っていくかが課題だが、アイデンティティの確立が差別化戦略のカギとなる。企業は、ブランド化を進める上で自社の製品やサービスが競合他社とどう違うのか、何が優れているのか、特徴や独自性、コンセプトを明確に打ち出していかなければならない。企業には、Corporate~、Product~、Visual~、Behavior~、Mind~など、さまざまなフェーズでのアイデンティティの確立が求められており、詳細な分析に基づくビジネス戦略が日々練られている。

Private brand(プライベートブランド)

小売業者や卸売業者などが独自に製品を企画、開発して独自のブランド名で販売する商品。”ストアブランド”とか”自主企画商品”とも呼ばれる。「無印良品」がプライベートブランドとしてスタートしたことは有名な話だ。類語に、store brand、house brand、own brandなどがある。プライベートブランドと対比されるのがナショナルブランド(National brand)だ。大手メーカーなどによって全国規模(ナショナル)で販売され、消費者にも広く知られ、どこでも手に入るような商品を指す。因みに地域ブランドは、local brand、area brand、regional brandなどと言うが、地域のブランディングを意味する場合は、place brandingと訳すことも多い。

Self branding(セルフブランディング)

この用語がどういった文脈で使われているのかをしっかりと把握しないと、とんでもない誤訳につながる場合がある。英語の感覚からすれば、消費者が自身のコンセプトを、ブランドの持つイメージにオーバーラップさせていくような消費者行動に近いニュアンスだ。つまり、Self~とあったら、自分で~するといった感覚だ。だが、日本でセルフブランディングと言う場合は、自身の認知度を高めるために、自己アピールすることによって自分自身のをブランド化を図る意味で使われる。パーソナルブランディングが企業のイメージアップを目指すのに対して、組織を切り離して個人として自らをプロモーションすることと捉えている。パーソナルブランディングとセルフブランディングは、そういった意味でも明らかに異なる。だが、英語圏でSelf brandingと言う場合は、さらに別の意味合いがあることも頭に入れておく必要がある。安易に訳さず、先ずは文脈を読み取ろう。因みに、Private brandとも意味はまったく異なるので、混同しないように。

Personal branding(パーソナルブランディング)

セルフブランディング(Self branding)とは違うので注意が必要。パーソナル~、セルフ~、自己~、自分~、といった表現が整合性もなく使われたりしているが、パーソナルとセルフでは意味が異なる。Personal~とSelf~を混同して、自分ブランディングなどと画一的に訳すと整合性が失われたりする。パーソナルブランディングでは、「所属組織のイメージを高める」ことを目的として個人のプロモーションが行われる。組織の中の「個人」を前面に出しアピールすることによって組織全体のイメージアップを図り、企業のプロモーションにつなげていくのである。”日産”のゴーン氏や”ワタミ”の渡辺氏などがパーソナルブランディングの成功例と言えば、すんなり理解できるだろうか。パーソナルブランディングは、企業ブランドの価値にも影響を与えるため、企業戦略の一つとして重要度が増している。

PaaS(PaaS(サービスとしてのプラットフォーム))

IaaSと混同して使われやすい用語だが、インフラとプラットフォームの違いがある。”Platform as a Service”の頭文字。これも英日併記がいいだろう。声に出して読むとしたらパース。PaaSは、ソフトウェア(アプリケーション)の開発環境や実行環境などのプラットフォームをネット経由のサービスとして提供するビジネスモデルとなっている。アカウント数の分だけ、使った分だけが月額使用料という形で請求されるので経費削減にもなる。物理的なインフラが手ごろな価格で構築できる時代になっていることを考えると、ローカライザーの視点からは、マルチ言語やマルチ開発プラットフォームに対応したオープンソースのPaaSの提供ビジネスはさらに拡大していくだろうと感じている。

IaaS(IaaS(サービスとしてのインフラ))

SaaSと同様に頻繁に出てくる。クラウドコンピューティングを象徴するモデルの一つ。”Infrastructure as a Service”の頭文字。この用語も、英日併記にした方が今のところ読者にわかりやすい。読み方としてはイアース。クラウドコンピューティングと仮想化技術によって、システムを構成するインフラ環境までもがネット経由で構築できるわけだ。HaaS(Hardware as a Service)と呼ばれることもあるが厳密には異なり、IaaSは仮想化技術でIT基盤を提供していることからも、HaaSの進化系と言える。

SaaS(SaaS(サービスとしてのソフトウェア))

IT翻訳者なら見慣れている用語だろう。”Software as a Service”の頭文字。SaaSという言葉が一般的でない現状を考えると、ドキュメントの初出では英日併記が望ましい。読むとしたらサース。SaaSは、クラウドコンピューティングの成せるワザだろう。ネット経由でサービスとしてソフトウェアが利用できるスタイルなのだが、従来のようにライセンスを購入して自身のマシーンにインストールする必要はない。使いたいソフトウェアを使用した分だけ、あるいは使用した機能に対してのみ料金を払うビジネスモデルとなっている。これにより、IT投資や運営費の削減が可能となる。クラウド上ではさまざまなサービスが展開されているが、SaaSのほかにPaaSやIaaSなどがある。

OPEX(オペックス→運営費)

Operating Expenseを略した表現。オペックスと訳すか運営費とするかは、翻訳ドキュメントの読者層による。CapExと対比的にOpExと表記することもある。説明するまでもなく、事業などを運営していくために必要となる経費のこと。IT企業では特に、運営費削減への取り組みが主要な課題となっているが、クラウドサービスの活用によっては、CAPEX(資本支出)の予算をOPEX(運用費)の予算に移行できるため、CAPEXとOPEXの比率の最適化を実現するソリューションの提供サービスがさらに広まるだろう。

CAPEX (キャペックス→資本的支出)

Capital Expenditureを略した表現。CapExと表記したりもする。文脈を把握して翻訳しているかどうかで翻訳品質に違いが出るので、用語の意味も理解しておきたい。一言で説明すると、資産として計上され減価償却の対象となる支出のこと。厳密には詳細な説明が必要になってくるが、意味がピンとこないということであれば、こう考えよう。不動産(建物や大型の設備など)の大規模な修繕や耐用年数を延ばすなど、良くするための支出がこれにあたる。良くするわけだから不動産などの価額や価値が上がることになる。そのため、資産として計上され減価償却の対象となる。つまり、単なる経費として処理される支出とは異なる。CAPEXとよく一緒にでてくる用語にOPEXというのがある。

Due diligence(デューディリジェンス)

企業の開示情報の法律適合性などを精査する場合によく使われていた。最近は特に、投資対象の適格性調査や企業価値評価などにおいて出会うようになった。資産や負債などの財務査定や法務調査をはじめ、生産や販売能力、業務実態、職務環境の調査など、使われる領域は多岐にわたっている。しかし、デューディリジェンスと言っても、専門家でもない限りピンとこないのも事実。訳す場合は、ドキュメントのターゲット(読者層)を知る必要がある。一般向けであれば、資産、価値、詳細、適正、調査、精査、事前といった言葉を文脈から判断して組み合わせ、「詳細調査」「適正評価」「資産の適正精査」などと訳した方がわかりやすいだろう。