先日スマホの機種変更と、家のWifiの見直しを相談しにキャリア店舗に出かけた。機種変更自体はastronomical(天文学的)な価格であることを別にすれば問題なく、ちょうど今使っているWifiの切り替え時期だったこともあり、スムーズに進んだがそれでもなんだかんだで3時間半かかった。昨今の店舗は完全分業制である。銀行も最近はロビーサービスのような方がいて、窓口に行く前に諸々の書類作成や必要書類の確認したうえで窓口に案内されるが、それと似たような感じである。(ちなみに筆者は元銀行員で、私が窓口にいたころは順番待ちの番号札などなく、カルトンと呼ばれるお盆のようなものにどんどんどんどん通帳や現金が積まれていき、必死で下から処理していた。)
もとい。まず予約時間に店舗に行くと、ロビー担当の方(この人が多分店舗のキーマンとなる。私たちの担当は実に有能だった)が今の状態をお聞かせください、とアンケートを持ってきた。状況を確認し、お薦めサービスを絞り込むためのアンケートである。書き終わると、先ほどの有能係員(仮にS氏としよう)がやってきて、「こちらへどうぞ」と空いたテーブルに案内される。機種変更の希望モデルとカラーを伝えるとS氏はさっと立ち上がり「お待ちください。在庫があるか確認します」と裏に行き、嬉しそうに「ありました。確保しました!」と持ってきてくれる。その後、今のプランを確認して、通常の使用状況を聞いて「うん、このままのプランでいいですね。もうこのお得なプランは新規では選択できなくなっていますし、うん、このままいきましょう。ではWifiに移りましょう」。ここまでで既に1時間。
今のWifiの速度が遅いこと、電話線の都合でモデムの置き場所が限られるため、全ての部屋をカバーできていないことを伝える。うちの団地は光回線が通っているはずなのですが、と伝えると。S氏はうなずき、「はい。なぜ遅いか、お伝えします。確かに団地の管理事務所かどこかわかりませんが、そこまでは光が来ています。でもその先、つまりお部屋の中は実はVDSLなんです。管理事務所まで来ていてもそれを団地内のユーザーでシェアする形になるので、まあそれでもほとんど問題ないはずなんですが、やはり使用するデバイスも増えてきていますし、遅く感じるのはもっともだと思います。おまけにプロバイダー(ぷらら)は近々サービスを停止することが決まっているのでそれもあるかもしれないですね。」そうなの??「でもお客様、いいタイミングで来られましたね。今月が今のサービスの2年縛りの満期月なので、解約料はかかりません。切り替えのチャンスです。今は電源に指すだけのWifiが人気です。もともとはXXXさん(別のキャリア名)が始めたものなんですが、すごく便利です。お住いの場所に5Gが来ているか確認しますね。」と言って地図を持ってきてくれる。「大丈夫ですね。近くに森がありますね。」近くに大きな公園がある。「あーそうですか、その公園の中は5G対応ではないのですが、お住いのところは大丈夫です。せっかく5G対応モデルに機種変更されたのですから、こちらをお薦めします。」トークは続く。「ただいま、キャンペーン中で、この本体は70,000円するんですが、月々サポートがはいるので、実質お客様のご負担はありません。ただし!4年間、使い続けていただく必要があります。」4年後、生きているかどうかもわからないけど、わかりました。お願いします!と伝える。満面の笑みをたたえ、「それではこれからご注意事項を動画で視聴いただきます。お待ちください。」といってタブレットを持ってくる。最近は注意事項はほぼ動画である。父の白内障の手術の注意事項も動画だったなあと思いながら、モバイルの機種変更とWifiの変更の2種の動画を見る。この時点で既に2時間半経過。だんだんくらくらしてくる。それでもまだ窓口は空かない。動画を見終わったことを伝え、新しいモバイルに貼るフィルターを選んだところで、ようやく窓口に呼ばれた。担当交代である。
「お越しいただきありがとうございます。まず機種変更から承ります。担当のxxxxです。では新しいモバイルはこちらです。Simのアクティベートは今行いますか?たまにですがご自宅でアクティベートされてうまくいかなかったケースがございますので。」つまりプロに任せた方がいいんじゃない?ということである。お願いします、というと「承知しました。プランはこれまでと変更なし、ということですね?傷がないかご確認ください。」はい。では手続きに入ります。カチャカチャカチャ。はい。「重要事項の説明は先ほどの動画で見ていただいた通りです。よろしければサインをフルネームでお願いします。」サインすると「こちらの契約書は電子配布でよろしいですか?印刷もできますが。」いえ、電子配布で大丈夫です。「ありがとうございます。データの移行はご自身でされますか?こちらで行う場合5500円で承ります。またフィルムはご自身で貼られますか?こちらで貼りますと1100円になります。」いえ、データの移行もフィルムの貼り付けも自分でします。「承知しました。ではお会計はxxxxです。今溜まっているポイントはお使いになりますか?」みると59ポイントたまっている。いえ、そのままで。「来月だけ、機種変更の手数料が4980円かかります。ご了承ください。」はい。これで機種変更は終了。「それでは引き続き、Wifiの切り替えに入ります。こちらがホームルーターです。傷がないかご確認ください。ご自宅のどこでも電源に入れるだけでWifiが繋がります。ただし、ご住所の中だけでお使いください。外でご使用されたことが分かった場合、使用を停止させていただくことがあります。」わかりました。「では、こちらにサインをお願いします。」ありがとうございます。もうくたくたである。「それではSimのアクティベートを行いますので、ちょっとお待ちください。」
この辺りから自分のことがほぼ終わったので周りの声が耳に入って来る。右にいるのは70台くらいの女性。話が聞こえてくるとキャリアのカードを作ることを勧められている。女性は乗り気である。するとさらに電気、ガスも一括でどうでしょう?と勧誘されている。いやいやいや、やめとけ~
左にいるのはやはり70台くらいのご夫婦。スマホデビューのようだ。こちらも聞こえてくる会話はかなりきつい。この会社では80歳以上の契約に関しては同伴者が必要になるようだが、夫婦で来てしまえば決めてしまうことになるだろう。勧められていらない機能をつけてしまうことも十分にありうる。カードだってポイントにつられてつい作ってしまうかもしれない。例えばこの会社のクレジットカードは年会費11,000円条件達成で7000ポイントもらえる。モバイルの月々の支払いやデバイス代を払えばポイントでカバーできるというが、毎年11,000円払うというのは結構じゃないかなあ。年会費無料のカードなんていくらでもある。
私はネットワークのことはほとんどわからないし、どちらかというとスマホよりパソコンの世代なので、正直説明されたことすべてを理解しているとはいいがたい。でも少なくともわからないと思ったことは聞くことができる。薦められても、Noと言える。Noの理由もはっきり言える。でも私の両隣にいらした方たちは言えているのだろうか。
もうスマホは生活になくてはならいないものであり、常に目に入るところにないと不安になる。外出先ではすぐに無料Wifiを探す。家族や友人とのメールやチャットのやり取りはもちろん、天気予報、時間、ナビ、カード情報、銀行手続き、何もかもスマホにいつの間にか頼っている。今年は確定申告にもeTaxを使った。スマートウォッチで健康状態もトラックしている。
今年95歳になる私の父はスマホを持っていない。電話はガラケーを使っている。メールはかろうじて見れるが見ない。天気予報はテレビを、時間は時計を、ナビは紙の地図を、株情報は新聞を見る。電卓をたたき、損益を計算する。確定申告は電卓と税務署からもらった資料で済ませたらしい。マイナンバーカードは持っているが電子情報の切り替えが切れていたのに気づかず、手続きに行ったが、パスワードを打てなかったそうである。数字は打てるがアルファベットが打てないらしい。もちろんここまでの人も少ないだろう。でもレストランに入っても注文はタブレット、支払いは自分で清算となると、なんとなくおっくうになり、外食も減ったそうである。
何年か前に新聞に出ていたが、ドイツで昔ながらのレジを使った顧客サービスを始めたところ、非常に好評だったそうである。ゆっくり話をしながらレジに並び、支払いは現金のみ。時間はかかるが、目に見えるものだけを使ったシンプルな小売形態である。
技術の発達を止めることはできないし、止める必要はない。でも少なくとも「選べる」社会であってほしい。
