「安くて美味しくて早い」?

「安くて美味しくて早い」のがフードチェーン店のキャッチ。もし、”まずいがとにかく安くて早い”というお店があったら流行るだろうか。程度問題になってしまうが、利用するお客さんもいるだろう。すべての市場を一緒くたに議論はできないが、翻訳業界も似ている。

機械翻訳はまさに「まずいが安くて早い」のだ。機械翻訳は、本来は生き物であるはずの言葉を無機質化してデータ処理することで即応的に大量の言葉の置き換えを可能にしている。しかし、未熟な機械翻訳システムからは、まずい翻訳結果が現れることがある。常識では考えられないほどまずいのである。しかし、世の中、うまくできたもので、提供側と利用側の利害が一致した市場では繁盛している。

ところが、あまりのまずさに根を上げる人たちもいる。「いくら何でもまずくて食べられない。安くて早いのはいいが、食べられる味にしてくれ」とクレームする。さらには、「雰囲気のいいお店で、ちゃんと味付けされた美味しい食事が、センスのいい器に盛られ、サーブが遅いと感じることなく出てきて欲しい」と要求するお客様も大勢いる。つまり、要求の異なる多様なお客様が存在するわけだ。当然、そういったお客様の要求に応えるお店も続々と現れることになる。

面白いことに、「まずいが安くて早い」機械翻訳が、お客様のさまざまな声を引き出し、要求に応じた新たな市場を生み出している。機械翻訳によって翻訳者や翻訳会社が仕事を失いつつあるようにみえて、実は逆にビジネスチャンスを広げている。

やがて、まずかった機械翻訳がそれなりに美味しくなる時代も確実にやってくる。それも、すぐに。そして、美味しさが美味しさを呼び込み、より良い質を求める市場も拡大していくだろう。

質の階層化によって現れる大なり小なりの新しい波。ローカライザーとしての力量が試されている。
We are not afraid of tough demands!

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