Roll out(ロールアウト)

訳自体はそのままカタカナ表記すれば済むが、文脈を理解した上でカタカナ表記すべきだろう。分野によっては、解釈に混乱をきたす用語である。意味は文字どおり、roll(転がり)out(出る)で、世の中に製品やサービスを送り出すことだが、新規展開、運用開始、公開、市場投入、リリースなどなど、解釈は多岐に可能だ。

分野が異なれば、訳語に注意したい。基礎的な知識が不足しているのか、文脈を理解せずに翻訳しているケースをよく見かける。技術分野ではメインメモリーに空き領域がない状態のときに、補助記憶装置に優先順位の低いデータやプロセスを退避させることをロールアウトと言うが、そのことを知らないと”ちんぷんかん”な訳になったりする。

マーケティングの世界では、セールスレター(メール)などをリストに基づいて発送(発信)する作業のことを指すのだが、大量にDMを発送する作業もロールアウトである。

間違っても、rule outと見間違えて、「ありえない!」と言われないように。

Mushroom cushion(菌糸体(キノコの成分物質)を使ったクッション材)

スーパーで売っている食用の”きのこ”をクッション材として使っているわけではない。インテリア小物として売られている”きのこの形をしたかわいいクッション”でもない。パソコン機器などの商品の運搬時に使用される緩衝材(梱包材)なのだが、菌糸体(キノコの成分物質)とさまざまな作物の籾殻や種子殻などから包装資材が作られている。言うなれば、環境に優しい生物分解可能で堆肥化可能な緩衝材ってところだ。農業廃棄物を滅菌し型に入れて作られた菌糸体のかたまりを加熱するとマッシュルームクッションができあがる。

そのうち、英語をそのままカタカナ表記してマッシュルームクッションとするだけで通じるようになるかもしれないが、今のところは少し説明口調の訳にした方がわかりやすいだろう。

米国のEcovative Designという会社などが開発しているが、将来が楽しみなグリーンベンチャーたちだ。使い終わったら、堆肥化せずに食べられればもっといいのかも…???

Kick the can down the road(問題を先送りする)

時事英語の問題?
“缶けり”と言えば、”昭和時代の子どもの遊び”(今の子どもたちは缶けり遊びをやるのかな~)だが、時事表現では良く出てくる。今の世の中、先送りにされてきた問題が山積…。それはさておき…、

缶(the can)を、道の先(down the road)に、蹴っ飛ばす(kick)という表現が、問題を将来に先送りするという意味に転ずるのだが、どんなに遠くに蹴っ飛ばしてもその問題が消えてなくなるわけではない。

road(道路)の代わりにrunway(滑走路)が使われることがある。ニュアンスの違いだが、runwayには”花道”という意味もある。また、downには”中心から離れる”という意味も含まれることがある。問題を先送りする政治(家)を皮肉ったりするときに使われるのだが…。^_^

downが出てきたついでにワンポイント!

speed downをスピードダウン(スピードを落とす)と勘違いしないように。恐ろしい和製英語。英語でspeed downとはスピードを落とすことではない。加速することを意味するので要注意。例えば、speed down the runwayとあったら、飛行機が滑走路を加速しながら離陸していくこと。和製英語が頭にあると、悲劇的な誤訳を生みかねない。

Office administrator(秘書、…)

“事務管理者”って直訳してしまうと、具体的なイメージがわかない。役職の翻訳は、ホンとやっかいである。国や会社によっても、その定義が異なるからだ。米国系の企業でOffice administratorと言えば、一般的には秘書的業務を行う人のこと。ならば、Secretaryとの違いは?と問いかけられそうだが、ほぼ同じ意味で使われている場合もあれば、まったく異なる場合もある。Secretaryの定義はこれまた多様なだけに、文脈を読み取る必要がある。企業の役職を翻訳する際は、どこの国の企業か、その役職の業務内容はどういったものかを確認(調査)した方がいいだろう。

翻訳って、調査業務みたいなもの…なのかも…。

Evoked set(想起集合)

マーケティング業界でよく使われるが、ブランディングにおいて重要な尺度である。意味は文字どおり、消費者に(世の中にある無数の商品やサービスの中から、自社が販売するそれらが”選択肢(集合)”の1つとして)まず想起して(思い浮かべて)もらうということだ。選択肢(候補)に入るということは、消費者の記憶に残っているということだが、記憶からダイレクトに想起してもらうブランディングが重要ということになる。
ただ、この訳語は、読者によっては???となるかもしれない。そういった場合は、文脈を考え”選択肢”とか”思い浮かぶブランド”と訳した方がわかりやすくなるだろう。

Share of voice(SOV(シェア・オブ・ボイス))

<久しぶりの投稿。ここ数カ月、L10n用語を拾う時間もなくバタバタ。反省!>
さてさて…この言葉は、広告業界でよく使われる。何となくわかるような…、でもピンとこない表現。中途半端に直訳して”声のシェア”とするより、”SOV(シェア・オブ・ボイス)”とダイレクトに表記した方が業界では通じる。広告出稿量やメディア露出量を指す指標のようなものだと思えば良い。広告効果は、どれだけ広告費を投入したかという絶対量よりも、競合製品の広告出稿量との比較で決まるという考え方に基づいている。分母と分子をどう設定するかによって数値は異なる。SOVがマーケットシェアと比例するわけではないが、SOVが大きいと消費者の「想起集合=Evoked set」、つまり”選択肢”の中に自社商品を入れておいてもらえる確率は高まるのだろう。