回路シミュレーションに関する翻訳に、Harmonic Balance(ハーモニック・バランス)という言葉がよく出てくる(例えば、Agilent EEsof EDA W2300 ハーモニック・バランス・エレメント)。
多くの高周波回路には長い時定数が含まれているため、回路シミュレーションでは、過渡状態から定常状態に収束するまで、最低周波数の正弦波の周期の何倍にも渡る時間で数値積分を実行する必要があり、時間かかる。これに対して、通常欲しいのは、回路の定常動作である。このような場合に、ハーモニック・バランス・シミュレーションを使用すると、直接回路の定常状態のスペクトラム応答を求めることができ、シミュレーション時間が短縮される。
ハーモニック・バランス・シミュレーションでは、「与えられた正弦波信号に対して、回路に定常状態(定常解)が存在し、それが有限のフーリエ級数によって表現される」と仮定して、反復計算が行われる。図1のように、キルヒポッフの電流則を周波数領域で表わす。このとき、非線形素子(ここでは、ダイオード)を流れる電流は、図2のように、素子に印加される電圧スペクトラムを時間領域に逆フーリエ変換し、その電圧波形を印加したときの電流を(SPICEの時間領域モデルを使用して)計算し、それをフーリエ変換することにより、電流スペクトラムを求める。初期値(信号源電圧のみが与えられた状態)から出発して、各周波数成分毎に各ノードの電流の和がゼロになるまで(ハーモニック成分がバランスするまで)反復計算を行ない、定常解(定常状態のスペクトラム応答)を求める方法がハーモニック・バランス法である。