IQ Modulation(IQ変調)

デジタル無線通信測定に関する翻訳に、IQ Modulation(IQ変調)という言葉がよく出てくる(例えば、Keysight 81150A/81160A パルス・パターン/ファンクション/任意波形/ノイズ発生器)。IQ Modulation(IQ変調)は、以下の説明からもわかるように、quadrature modulation(直交変調)またはcomplex modulation(複素変調)と呼ばれることもある。

情報(音声やデジタルデータ)を無線伝送するために、電波(搬送波)が使用される。搬送波は、正弦波であり、

Acos(ωt+φ0)、ここで、A:振幅、ω:(角)周波数、φ0:初期位相、ωt+φ0:位相(位相角)

のように表される。

情報を送るためには、情報を表わす信号(音声やデジタルデータ)の変化に応じて、搬送波を変化させる(変調する)必要がある。変化させることのできるパラメータは、上の式の振幅と位相(周波数)だけである(周波数は、正弦波の位相を時間で微分したものであり、同じ変化の異なる表現に過ぎない)。したがって、搬送波は、振幅と位相(角度)による極座標で表わすのが簡単である。

デジタル変調では、デジタルデータをI軸(搬送波と同じ位相(同相成分、In Phase)の軸)とQ軸(搬送波と直交する位相(直交位相成分、Quadrature Phase)の軸)の直交座標上のシンボルポイントとして表わす(コンスタレーション表示)ことが多い。デジタルデータの変化は、コンスタレーション表示では1つのシンボルポイントから別のシンボルポイントへの移動であり、このとき、振幅と位相が同時に変化する(変調される)。高次変調(多値変調)では、特に、このシンボルポイント間の移動(デジタルデータの変化)を表わすために、正確に位相を制御する必要があるが、従来の位相変調器では困難である。しかし、I/Q変調器(直交変調器)を使用すると、以下のように容易に変調できる。このような変調をIQ変調と呼ぶ。

デジタルデータのシンボルポイントは、振幅(A(t))と位相(Φ(t))で表した極座標上の信号(ベクトル)を、I軸とQ軸に射影したもの(I(t)、Q(t))である。デジタル変調では、上の搬送波を表わす式で、振幅Aと位相(ωt+φ0)が時間とともに変化するので、振幅をA(t)、位相をΦ(t)=ωt+θ(t)(簡単のために、初期位相φ0をゼロとし、デジタル変調による位相の変化をθ(t)で表わす)とすると、変調を受けた搬送波(変調波)は、

A(t)cos(ωt+θ(t))

のように表すことができる。これを、三角関数の加法定理で展開すると、

A(t)cos(ωt+θ(t))=A(t)cos(ωt)cos(θ(t))-A(t)sin(ωt)sin(θ(t))
       =I(t)cos(ωt)-Q(t)sin(ωt)
(ここで、I(t)=A(t)cos(θ(t))、Q(t)=A(t)sin(θ(t)))

となる。この変調波は、ベースバンド信号(送りたいデジタルデータ)である、I(t)とQ(t)に対して、搬送波信号を生成するローカル発振器の出力(cos(ωt))と同じローカル発振器の出力を90度位相シフトする移相器に通した信号(-sin(ωt))を、ミキサを使用して乗算して、2つの信号、I(t)×cos(ωt)とQ(t)×(-sin(ωt))を作り、この2つを加算することにより、簡単に生成できる。

IQ変調については、以下を参照。

通信システムのディジタル変調入門編のp7~p11

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