Synthetic Aperture Radar(合成開口レーダー)

レーダー測定に関する翻訳で、Synthetic Aperture Radar(合成開口レーダー)という言葉がよく出てくる(例えば、レーダー/EWシステムテスト用の多次元信号の作成のp9)。合成開口レーダーは、SARと略されることがある。

radarは、RAdio Detecting and Ranging(電波探知および測距)の略で、ターゲットに電波を発射して、その反射波を測定することにより、ターゲットの方向や距離を測定する装置であるが、合成開口レーダーは航空機や衛星などの飛翔体に搭載され、移動しながら電波を送受信し、信号処理を行って極めて高い分解能(高解像度)の地形イメージ(例えば、このページの画像)を得るものである。

合成開口レーダーの電波による高解像度イメージング(可視化)は、レンズによる高解像度結像に例えることができる。レンズの大きさ(開口)が大きいほど、遠くにあるものを高解像度で結像することができるのと同様に、アンテナの大きさ(開口)が大きいほど、遠くにあるものを高解像度でイメージングできる。しかし、実際には大きなアンテナを飛翔体に搭載できないので、飛翔体の移動とともに電波の発射と反射波の受信/記録を繰り返し(1秒間に数千回)、後でこの膨大な(時間遅れ)データを処理することにより高解像度のイメージングを行っている。すなわち、データ処理により、飛翔体が移動した距離分の大きさ(開口)のアンテナと等価なものが得られたことになるので、合成開口レーダーと呼ばれる。

飛翔体の移動方向(アジマス方向とも呼ばれる)の高い分解能は上記のようにして得られるが、移動方向に対して垂直な方向(レンジ方向と呼ばれる)の高い分解能は、パルス圧縮レーダーと同じ原理で得られる。

合成開口レーダーについては、以下を参照。

合成開口レーダーと間接計測技術
合成開口レーダー

zero span(ゼロスパン)

スペクトラム・アナライザに関する翻訳に、zero span(ゼロスパン)という言葉がよく出てくる(例えば、衛星地上局の正確な検証/保守/修理 FieldFoxハンドヘルド・アナライザのp9)。

掃引同調型スペクトラム・アナライザでは、入力のRF信号を、LO(局部発振器)信号の周波数を掃引しながら(低い周波数から高い周波数に変化させながら(この周波数範囲をスパンと呼ぶ))、ミキサでダウンコンバートして、IFフィルタ(RBW(分解能帯域幅)フィルタ)を通過したRF信号とLO信号の差周波数であるIF信号をCRTに表示している(ここのJavaアプレットを参照)。すなわち、LO信号の周波数に応じて同調したRF信号の振幅が表示される(周波数の関数としてRF信号のパワー(振幅)が表示される)。

ゼロスパンとは、LO(局部発振器)信号の周波数の掃引を止めること(すなわち、スパンをゼロにすること)である。スペクトラム・アナライザをゼロスパンに設定すると、CRTに周波数の関数としてRF信号の振幅が表示されなくなり(振幅対周波数で表示されなくなり)、代わりにIFフィルタを通過した(帯域制限された)IF信号のパワー(振幅)の時間変化(すなわち、RF信号の時間変化)が表示される(オシロスコープのようにタイムドメイン(振幅対時間)の波形が表示される)。

ゼロスパンは、IFフィルタの帯域幅を調整して搬送波信号やスプリアス信号の単位周波数当たりのパワーを求めたり、時間軸上でほんの一瞬にしか存在しないバースト信号のスペクトラムを測定する(タイムゲーティッド・スペクトラム測定を行なう)際のトリガレベルを決めるために使用されたりする。

zero span(ゼロスパン)については、以下を参照

Zero Span Made Simple(英語ページ)

Zero Span(英語ページ)

intradyne(イントラダイン)

光変調測定に関する翻訳に、intradyne(イントラダイン)という言葉がよく出てくる(例えば、N4392A光変調アナライザのp8)。

光ファイバ通信では、1と0の符号列のデジタル信号をそのまま光信号のオンとオフに対応させて情報を伝送している。これはモールス信号と同じで、無線伝送で最も単純なデジタル信号伝送方式のオンオフキーング(搬送波の振幅があるかないかの振幅変調)である。受信側でフォトダイオードで2乗検波すること(光の強度(電界の2乗)に比例した出力電流を得ること)により情報を得ているので、光ファイバ通信では強度変調-直接検波方式と呼ばれている。この方式では、位相情報は失われる(位相情報は利用されていない)。

強度変調-直接検波方式(オンオフキーング)では、最大周波数利用効率が1 ビット/s/Hzと低いが、高速にオン/オフ動作する光/電子デバイスと波長多重化技術により、大容量伝送(1つの波長あたり40 Gbps)に対応してきた。しかし、限界が見え始めてきたので、さらに大容量の伝送を可能にするために、多値位相シフトキーングや直交振幅変調などの周波数利用効率の高い多値変調方式を使用して、光搬送波の振幅に加えて位相も変調して情報を伝送する方法が開発されている。この場合、光搬送波の位相(周波数)に情報を乗せるために位相の揃ったコヒーレント光を使用する必要があるので、コヒーレント光通信と呼ばれている。

コヒーレント光通信の検波方式には、コヒーレントな電波を用いる無線通信と同様に、ヘテロダイン検波(受信した光波をそれに近い周波数の局部発振光とミックスして(干渉させて)中間周波数帯の電気信号に変換する方法)とホモダイン検波(受信した光波をそれと等しい周波数の局部発振光と干渉させて直接ベースバンド信号に変換する方法)がある。しかし、電波に比べて周波数の高い光波のヘテロダイン検波では、中間周波数帯の幅が広くなり適用が難しく、ホモダイン検波では位相同期ループを使用して受信した光波と局部発振光の周波数を等しくする(位相を同期する)必要があるが光波ではその実現が難しいといった問題があった。

近年のデジタル信号処理の発展により、ホモダイン検波で必要であった位相同期ループをなくして、局部発振光の周波数や位相が受信した光波と多少ズレても、検波後の電気信号をデジタル信号処理することにより、リアルタイムで周波数や位相のズレを補正できるようになった。ホモダイン検波で位相同期ループをなくして、デジタル信号処理で周波数や位相のズレを補正して検波する方式がイントラダイン方式と呼ばれている。

コヒーレント光伝送技術については、以下を参照。

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