decade(ディケード)

測定器の翻訳に、decade(ディケード)という単位がよく出てくる(例えば、33500Bシリーズ 波形発生器のp14)。

decadeの通常の訳語は「10年」であるが、測定の分野では「10倍」という意味である。化学式の命名法などで覚えた、ギリシャ語のモノ(mono、1)、ジ(di、2)、トリ(tri、3)、テトラ(tetra、4)、ペンタ(penta、5)、ヘキサ(hexa、6)、ヘプタ(hepta、7)、オクタ(octa、8)、ノナ(nona、9)、デカ(deca、10)のdecaが語源である。

測定の分野では、1ディケードは周波数が10倍という意味で通常使われる。例えば、フィルタの遮断特性が、

-20 dB/decade

と書かれている場合は、周波数が10倍になる毎に、通過する信号の振幅が20 dB減衰するという特性をそのフィルタが持っているという意味である。

ディケードと似た単位にoctave(オクターブ)という単位がある。オクターブの語源は上のギリシャ語のoctaで、8度音階の8度の差(周波数差が2倍)という意味である。例えば、フィルタの遮断特性が、

-6 dB/octave

と書かれている場合は、周波数が2倍になる毎に、通過する信号の振幅が6 dB減衰するという特性をそのフィルタが持っているという意味である。

decade、octave、dBは、それぞれ相対値(次元のない量、比)の単位で、

3 dB/octave = 10 dB/decade
(さらに正確には、10Log2=3.01なので、3.01 dB/octave = 10 dB/decade)

の関係がある。したがって、

-20 dB/decade = -6 dB/octave

である。

propagation constant(伝搬定数)

伝送ライン測定に関する翻訳に、propagation constant(伝搬定数)という言葉がよく出てくる(例えば、物理層テスト・システム・ソフトウェア(PLTS)2016のp15)。

伝送ラインを分布定数ラインとして扱う、伝送線路方程式(電信方程式)を用いて、伝搬定数を説明する。

図1

図1

図2

図2

図3

図3

図1のように、伝送ラインを、単位長当たりにキャパシタンスCとインダクタンスLが存在する分布定数素子と考え、位置xでの電流、電圧をI、V、位置x+Δxでの電流、電圧をI+ΔI、V+ΔVとすると、ファラデーの電磁誘導の法則、電荷保存則などより、伝送線路方程式

∂V/∂x+L∂I/∂t=0 (図1の②式)
C∂V/∂t+∂I/∂x=0 (図2の④式)

が得られる。

これらの式から電圧または電流を消去すると、

∂^2V/∂x^2=LC(∂^2V/∂t^2) (図2の⑤式)
∂^2I/∂x^2=LC(∂^2I/∂t^2) (図2の⑥式)

の波動方程式が得られる。電圧に対する方程式(図2の⑤式)と電流に対する方程式(図2の⑥式)がまったく同じになるのは、電磁波が同じ形の電界と磁界の対として伝搬することに対応し、その比(特性インピーダンス)は一定である。

波動方程式の解として、周波数ω、波数k1、初期位相θ1の以下の平面波(正弦波)を考える。

V=V0exp(ωt-k1x+θ1)j
I=I0exp(ωt-k1x+θ1)j、jは虚数単位

このとき、時間微分演算∂/∂tはjωを掛けることに相当するので、上の伝送線路方程式と波動方程式は、

∂V/∂x+jωLI=0
∂I/∂x+jωCV=0

∂^2V/∂x^2=LCω^2V
∂^2I/∂x^2=LCω^2I

となる。

現実には、導体部分を流れる電流によるオーム損(R)と、導体を支えている誘電体部分による誘電損(1/G)があるので(図3参照)、上の伝送線路方程式と波動方程式は、

∂V/∂x+(jωL+R)I=0
∂I/∂x+(jωC+G)V=0

∂^2V/∂x^2=(jωL+R)(jωC+G)V
∂^2I/∂x^2=(jωL+R)(jωC+G)I

となる。

ここで、γ^2=(jωL+R)(jωC+G)=(α+jβ)^2とおくと、波動方程式は、

∂^2V/∂x^2=γ^2V
∂^2I/∂x^2=γ^2I

と書ける。このγを伝搬定数、αを減衰定数、βを位相定数という。この方程式を解くと、αは、電磁波が伝搬方向に進むときの減衰の大きさを表わし、βは、位相変化の大きさを表わすことがわかる。

伝搬定数については、以下を参照

伝送線路理論の基礎

東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻 牧野 泰才氏のホームページ > 資料 > 特性インピーダンス

digital beamforming(デジタル・ビームフォーミング)

移動体無線通信のシミュレーションに関する翻訳に、digital beamforming(デジタル・ビームフォーミング)という言葉がよく出てくる(例えば、W1906BEL 5Gベースバンド解析ライブラリ 5G研究向けのシミュレーション・リファレンス・ライブラリのp3)。digital beamforming(デジタル・ビームフォーミング)は、DBFと略されることが多い。

携帯電話などの移動体無線では、基地局と移動局との間の見通し線路が確保されることは少なく、周囲の多数の建物、看板、樹木などにより電波が反射、回折、散乱されて、多数の経路を通って複雑に重なり合い(パルチパス伝搬と呼ばれる)、受信強度が激しく変動(フェージング)し、符号間干渉が生じ、信号品質の劣化につながる。

このような状況では、送信アンテナから特定の方向のみに電波を送信(その他の方向への電波を抑圧)したり、受信アンテナで特定の方向のみの電波を受信(その他の方向からくる電波を抑圧)するように、アンテナの指向性を変化させることができれば、受信強度の激しい変動がなくなり、良好な信号品質を確保できる。このようにアンテナの指向性を特定の方向にだけ強くすることをビームフォーミングと呼ぶ。

移動体無線では、移動局が時々刻々に移動したり、天候も変化するので、パルチパスの伝搬状況も時々刻々と複雑に変化する。このような変化に適応するためには、アンテナの指向性も高速かつ複雑に変化させる必要がある。送信アンテナのビームフォーミングでは、移動局が受信した振幅や位相などの伝搬路情報をフィードバックして高速にデジタル信号処理を行ってビームフォーミングを行なう必要がある。これを機械的にアンテナを回転させて行なうのは困難なので、複数のアンテナ素子を並べて配置したアレーアンテナが用いられる。伝搬路情報のフィードバックに基づいて、アレーアンテナの各アンテナ素子から放射させる電波が受信位置で強め合うように高速にデジタル信号処理を行い、それをD/A変換して各アンテナ素子に給電する振幅と位相を調整して、ビームフォーミングを行なう。これが、デジタル・ビームフォーミングである。

また、デジタル・ビームフォーミングでは、デジタル信号処理により複数の特定の方向に指向性を持たせることも可能なので、同じ空間を同じ周波数で同時に複数の送受信が可能(空間多重化が可能)になり周波数利用効率も向上する。

デジタル・ビームフォーミングについては、以下を参照。

通信用ディジタルビームフォーミンクアンテナ-見えてきたインテリジェントアンテナとしての将来-