Method of Moments(モーメント法)

電磁界シミュレーションに関する翻訳に、Method of Moments(モーメント法)という言葉がよく出てくる(例えば、Agilent EEsof EDA E8921A/AN Momentum)。

電子デバイスの高周波化/高密度化にともなって、伝送線路が電磁界による相互作用によりL成分やC成分を持つようになる。また、伝送線路も複雑な形状になり、電磁相互作用を解析的に(方程式を立てて式変形して)直接解くことはできない。このような場合は、問題の領域を離散化して数値的に解く必要がある。これを行うための手法の1つがモーメント法である。モーメント法を簡単に説明するのは難しいが、概要は以下のようである。

Lを微分演算や積分演算などを含む適当な線形演算子、f(x)を求めたい未知の関数(電流や電荷)、g(x)を与えられた既知の関数(入射電界や励振電界)とすると、系の支配方程式は、

L(f(x))=g(x)

となる。ここで、求めたいf(x)を境界条件を満たす基底関数列f_n(x)(n=1、2、・・・、N)で、

f(x)≒Σa_n×f_n(x)、a_nは求めたい展開係数

と展開して、L(f(x))=g(x)に代入すると、

Σa_n×L(f_n(x))≒g(x)、残差R=g(x)-Σa_n×L(f_n(x))

となる。ここで、基底関数f_n(x’)と重み関数f_m(x)(m=1、2、・・・、N)の内積(モーメント)を、

<f_m、f_n>=∫f_m(x)×f_n(x’)dx’dx

で定義する。展開係数a_nが適切に求まると残差Rはゼロに近づくので、残差R=g(x)-Σa_n×L(f_n(x))とf_m(x)の内積がゼロになることから、

Σa_n×<f_m(x)、L(f_n(x))>=<f_m(x)、g(x)>、m=1、2、・・・、N

となる。これは、z_mn=<f_m(x)、L(f_n(x))>を要素とするN×Nの行列Z、求めたい展開係数を要素とするベクトルa、<f_m(x)、g(x)>(m=1、2、・・・、N)を要素とするベクトルbを用いて、書き直すと、

Za=b

の連立方程式である。これを数値計算手法で解けば、展開係数を有限個(N個)で打ち切ったときの近似解aが得られる。

モーメント法については、以下を参照

モーメント法

電子情報学会 知識ベース 知識の森 > 4群 モバイル・無線 > 2編 アンテナ・伝搬 > 10-3 モーメント法

Surface Integral Equations and the Boundary Element Method(英語PDF)

skin effect(表皮効果)

電磁界シミュレーションに関する翻訳に、skin effect(表皮効果)という言葉がよく出てくる(例えば、Agilent EEsof EDA E8921A/AN Momentumのp6)。

導線に直流電流が流れている場合は、電流は導線の断面に一様に分布して流れる。しかし、導線に交流電流が流れる場合は、交流の周波数の増加とともに、導線の断面の外側(導線の表面)に電流が集中し(電流密度が高くなり)、導線の中心に向かうに従って電流が流れ難く(電流密度が低く)なる。この現象を表皮効果と言う。表皮効果は以下のように定性的に説明できる。

導線に直流電流を流すと、アンペールの右ねじの法則により、電流の流れる向きの同心円上に静磁界ができる。この磁界は導線の内部にも生じている。導線に交流電流を流すと、同様に、導線の内部に時間的に変化する磁界が生じる。この時間的に変化する磁界は、ファラデーの電磁誘導法則により、その磁界の回りに渦電流を生じさせる(Skin effectを参照)。この渦電流の向きは、導線の(断面の)中心では元の交流電流と逆向きになり元の交流電流をキャンセルし、導線の表面(導体の断面の外側)では元の交流電流と同じ向きになり元の交流電流を強める。結果として、導線の表面に電流が集中して流れる。

表皮効果の詳細については、以下を参照

伊藤 洋のページ > 講義ノート > 電気学7.発電(ファラデーの法則と発電機)の「渦電流と表皮効果」の項